特集

大阪・関西万博プロデューサーが語る“いのち”の未来と万博への挑戦
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アニメーション監督/メカニックデザイナー/ビジョンクリエーター
2025年 大阪・関西万博 テーマ事業プロデューサー河森 正治
慶応義塾大学在学中に原作者の一人として携わったTVアニメーション『超時空要塞マクロス』、そこに登場する三段変形メカ、『バルキリー』のデザインも担当。劇場作品『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』で23歳の若さで監督に抜擢される。『マクロス』シリーズ以外にも『地球少女アルジュナ』、『アクエリオン』シリーズ、メカニックデザイナーとして、『機動戦士ガンダム0083スターダストメモリー』、『攻殻機動隊』、『サイバーフォーミュラ』、『アーマード・コア』、ソニーのエンターテインメントロボット“AIBO”『ERS-220』、日産デュアリスCMメカ『パワード・スーツ デュアリス』、ソニースマートウォッチ『wena』のデザインをするなど幅広く活動。2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)では、テーマ事業「シグネチャーパビリオン」のプロデューサーの一人に任命。
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慶応義塾大学医学部教授
2025年 大阪・関西万博 テーマ事業プロデューサー宮田 裕章
2025 日本国際博覧会テーマ事業プロデューサー、うめきた 2 期アドバイザー、厚生労働省 データヘルス改革推進本部アドバイザリーボードメンバー、新潟県 健康情報管理監
神奈川県 Value Co-Creation Officer、国際文化会館 理事
専門はデータサイエンス、科学方法論、Value Co-Creation
データサイエンスなどの科学を駆使して社会変革に挑戦し、現実をより良くするための貢献を軸に研究活動を行う。専門医制度と連携し 5000 病院が参加する National Clinical
Database、LINE と厚労省の新型コロナ全国調査など、医学領域以外も含む様々な実践に取り組む。それと同時に、アカデミアだけでなく、行政や経済団体、NPO、企業など様々なステークホルダーと連携して、新しい社会ビジョンを描く。宮田が共創する社会ビジョンの 1 つは、いのちを響き合わせて多様な社会を創り、その世界を共に体験する中で一人ひとりが輝くという“共鳴する社会”である。
TOPPANが提供するラジオ番組 J-WAVE「TOPPAN INNOVATION WORLD ERA」(毎週日曜日 23:00~23:54放送)にTOPPANが『シグネチャーパビリオン』で協賛する河森正治プロデューサーと宮田裕章プロデューサーに出演いただき、大阪・関西万博開幕に先駆け、 2025年2月にTOPPAN小石川本社ビル内で公開収録を行いました。
収録では大阪・関西万博プロデューサー同士の貴重な対談が行われ、お二人のこれまでのキャリアや万博への思い、さらにはアートとテクノロジーの可能性まで、濃厚なやりとりが展開されました。
公開収録のアーカイブ動画もこちらからご覧になることが出来ます。
“万博プロデューサー”という縁
宮田: 「まずは、どうして私たちがここでこうやって話しているのか、その経緯を簡単に――2025年に開催の大阪・関西万博では、会場の中心部に『シグネチャーパビリオン』という、大きなテーマ展示があるのですが、そのプロデューサーの一人に河森さんがいらっしゃる。そして私自身も、別のテーマで同じ『シグネチャーパビリオン』を作る立場なんです。今回TOPPANさんが私たち二人のパビリオンそれぞれに協賛いただいているということで、J-WAVE「TOPPAN INNOVATION WORLD ERA」の収録として、ここで河森さんと対談させていただいてるんですね。」

宮田: 「河森さんといえば、『マクロス』や『アクエリオン』といった作品を手掛けてきたアニメ界の重鎮ですよね。私も『マクロス』シリーズの中で描かれる“対話できない相手とも歌でわかり合おうとする”世界観が好きで。そこが今回、『いのち輝く』を掲げる万博にも通じるテーマだと感じています。
そんな、河森さんがクリエイティブというものを志したのはご自身の記憶でいつ頃なんですか?」
河森: 「ありがとうございます。子どもの頃、富山の山奥から横浜に引っ越した時のカルチャーショックが、自分の創作の始まりなんです。“こんな世界があったんだ”という驚きはその後、宇宙への憧れやアニメ制作の道へつながりました。アメリカのNASAに行ってロケットを作りたいとも思っていたんですけど、数学と英語が苦手で断念したんです。そこで、“アニメなら、好きなだけ宇宙に行ける”という発想に切り替えたんです。」
宮田: 「それで生まれたのが『マクロス』や『アクエリオン』なわけですね。いま振り返って見ると、武力よりも歌や文化を通じた対話を選ぶという設定が、当時はかなり斬新だったと思います。日本のサブカルチャーが多様なキャラクターや世界観を生み出せたからこそ、河森さんのオリジナリティを存分に発揮できたんですね。」
河森: 「まさにそうで、“武力で勝つ”のではなく“どうやって対話に持ち込むか”がテーマでした。それに私が創作で大切にしていることは“オリジナリティ”なのですが、その意味でも“アニメーション監督”とか“メカニックデザイナー”という肩書きではしっくりこなくて。自分は“ビジョンを作り出す”ことがいちばんやりたいことなんだ、と。だからこそ“ビジョンクリエーター”と名乗っているんです。」
宮田: 「なるほど。そんな河森さんは今のご自身が活躍されているステージの扉を開いた突破ストーリーを挙げるといかがですか?」
河森: 「最初にマクロス劇場版の監督を23歳でやらせていただいた。それも突破ではあるんですけども。25、26歳の頃に中国や内モンゴルの少数民族のところへ取材に行った際に、テレビと電気がなくなると、途端に子供が生き生きとしているのを見てショックを受けた。人間は生き物だったんだってことを改めて実感するような体験だったんです。それが、自分にとっては強烈な転機になりましたね。」

河森: 「一方、宮田さんの肩書は“データサイエンティスト”なんですよね。データサイエンスの話の多くが数字やデジタルがメインになりがちなのですが、なぜか宮田さんが話されるデータの話には血の通った部分があって。そこが不思議で魅力的だったんです。それはどうしてなんですかね?」
宮田: 「よく言われるんですが、実は数字って“問いをどう立てるか”次第で、見え方が大きく変わるんですね。何をデータにするかについて、いかに誠実に対話するか、それは一番大切にしている部分かもしれません。ありがちな落とし穴としては、強い立場の人のデータはどんどん集まるけれど、弱い人や少数者のデータは拾われにくいことで、そのままだと格差や不公平を強化してしまう恐れがある。だから、異なる立場の人たちの声を、いかにデータとして可視化するのかを大事にしているので、そこが、他と違ったように感じられる部分かもしれない。」
河森: 「なるほど。その世間で流布されているデータの精度はどうやって見極めたらいいんですか。例えば、いのちの輝き感とか生き生きしている感じ、のようなものは可視化されていないと感じるのですが。」
宮田: 「まさに、今回の万博における私たちが大事にしている本質の1つだと思います。産業革命以降お金や効率ばかりがわかりやすく可視化された。お金より大事なものがあるというのだけどそれを可視化することができず、結局可視化されたわかりやすいもので人生や国家さえも飲み込まれてしまった。今まさに、いのちの輝きを可視化することで世の中の考え方を再定義して、1人1人のステータスに寄り添って最大多様の最大幸福につながるデータの活用ができると思うんです。」
河森: 「多様性は本当に重要ですよね。そんな、宮田さんの突破ストーリーがあればぜひ伺いたいです。」
宮田: 「医療から始めたんですけども、データサイエンティストとして人のいのちに寄り添い、価値を可視化する取り組みを続けてきて、その中でより本質に迫っていくために仕事のやり方や他者と共につながりも拡張してきました。今回の万博プロデューサーの仕事もその延長線上にあり、現在「クリエイター」「キュレーター」「プロデューサー」という3つの立場を同時に担っています。これはまだ挑戦途中の“突破”ですが、ポジティブにこれを突破していきたいと思っています。」
互いのパビリオン構想と重なるテーマ

宮田: 「今回私がプロデュースするパビリオン『Better Co-Being』(テーマ : いのちを響き合わせる)は、万博会場中央にある『静けさの森』の一角にあり、屋根も壁もない自然と一体化したパビリオンなんですが、様々なアーティストとコラボレーションして作っているパビリオンで来場者同士がつながり、様々な共鳴体験を巡りながら、共に未来へと向かうことを目指しています。例えば、ステファノ・マンクーゾという植物学者とコラボレーションし、植物から見た世界を一緒に作っているんです。これも河森さんからかなり影響を受けたんですけど。植物の見てる世界って、すごく豊かで面白くて、自分たちの生存だけじゃなくて、生態系そのものをいかに支えるかといったもので、そういったものを表現したいんです。河森さんにぜひそれを見ていただきたい。」
河森: 「是非見たいですね。意識しないとどうしても人間中心の考え方に偏ってしまいますからね。
私がプロデュースするパビリオン『いのちめぐる冒険』(テーマ : いのちを育む)ではVRとMRを組み合わせた“超時空シアター”で、魚になってみたり鳥になってみたり、その瞬間、また食べられる側になってみたり。とにかく、人間中心の感覚じゃなくて、いのちが連鎖・循環しながら繋がっているということを、エンタメで実感してほしいんです。」
河森: 「魚を食べて消化されて吸収されて、いつの間にか自分の細胞になってるってことは合体してるわけですよね。魚も自分になってるし、魚を食べてるんじゃなくて合体してるんじゃないかと、それで考えると、その魚がもともといた海とも合体しているし、朝起きて日差しを浴びることは太陽と合体したとも言えて、499秒前、私は太陽だったわけです。そんな感覚が少しでも得られるような展示をしたいと思ってるんです。」

宮田: 「以前、デモを先だって体験させていただいた時、まだ6割だとお聞きしたのですが、すごかったです。この手の展示は人間中心になりがちで、人間が食物連鎖の頂点であるみたいな、階層思考を持ち込むことが多いんですよね。
河森さんの体験というのは、魚になったと思ったら食べられて、次は鳥になって、みたいにもう縦横無尽に切り替わるんですよ。私のデータサイエンティストの視点のすごく重要な立脚点では、フラットに誠実にいかに世界を見れるかということを考えてますが、本当によりフラットにこの未来を感じていける作品ですよね。」
宮田: 「そして、私も河森さんのパビリオンもバーチャルパビリオンをTOPPANさんに作ってもらっているのですが、河森さんのバーチャルパビリオンはどんな感じなんですか?」
河森: 「『いのち玉』といういのちには上も下もないっていうのを表すパビリオンのシンボルがあるんですが、バーチャルパビリオンではそれを太陽の塔と同じぐらいの大きさで配置して、『いのち玉』の外も中も旅することができるような体験を作ってます。」
宮田: 「本物だと中に入れないわけですからね。バーチャルだからこそできる『いのち玉』の体験ですね。
私たちのバーチャルパビリオンでは、思い出をユニークなものとして共有する『Better Co-Being Journal』を見ることができる空間を作っています。」


河森: 「今の時代って1970年大阪万博の時と違って、テーマパークはいくらでもあるし、もう最先端のエンタメがたくさんある時代ですが、万博でしか体験できないもの、見せられないものは何かっていうのをみんな追求して作っていますのでぜひ体験してほしいですね。」
宮田: 「本当に世界各国のパビリオンも本気ですよね。
まだ本番までは準備期間がありますが、その分どんなアイデアも詰め込める可能性があるともいえますし、毎日ワクワクしています。世界各国のパビリオンもどんなふうになるか楽しみですよね。」
河森: 「私たちもまだ完成してないからこそ、手探りで面白いものを作ろうとしてます。皆さんに見に来てもらえるよう、全力を尽くします。いっしょに“デカルチャー”な衝撃を味わいましょう!」

〈対談の一部は番組ポッドキャスト「TOPPAN INNOVATION WORLD ERA」でもお聴きいただけます。〉
■「TOPPAN INNOVATION WORLD ERA」番組概要
放送局:J-WAVE(81.3FM)
番組名:TOPPAN INNOVATION WORLD ERA
放送日時:毎週日曜日23:00~23:54
レギュラー放送ナビゲーター:真鍋大度(毎月1週目)、後藤正文(2週目)、のん(3週目)、小橋賢児(4週目)、5週目は毎回異なるスペシャルナビゲーターが担当。
番組HP:https://www.j-wave.co.jp/original/innovationworldera/
番組ハッシュタグ:#era813
番組ポッドキャスト:
・Apple Podcast|https://podcasts.apple.com/jp/podcast/j-wave-toppan-innovation-world-era/id1506148093
・Spotify|https://open.spotify.com/show/3dY49Ad7wUoDzJeW1afRoo